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1.対象不動産の確定について
(1)鑑定評価の条件設定の意義
鑑定評価に際しては、現実の用途及び権利の態様並びに地域要因及び個別的要因を所与として不動産の価格を求めることのみでは多様な不動産取引の実態に即応することができず、社会的な需要に応ずることができない場合があるので、条件設定の必要性が生じてくる。
条件の設定は、依頼目的に応じて対象不動産の内容を確定し(対象確定条件)、又は付加する地域要因若しくは個別的要因についての想定上の条件を明確にするものである。したがって、条件設定は、鑑定評価の妥当する範囲及び鑑定評価を行った不動産鑑定士の責任の範囲を示すという意義を持つものである。
(2)鑑定評価の条件設定の手順
鑑定評価の条件は、依頼内容に応じて設定するもので、不動産鑑定士は不動産鑑定業者の受付という行為を通じてこれを間接的に確認することとなる。しかし、同一不動産であっても設定された対象確定条件の如何又は付加する地域要因若しくは個別的要因についての想定上の条件の如何によっては鑑定評価額に差異が生ずるものであるから、不動産鑑定士は直接、依頼内容の確認を行うべきである。
① 対象確定条件について
対象確定条件については、対象不動産に係る諸事項についての調査、確認を行った上で、依頼目的に照らしてその条件の妥当性を検討しなければならない。特に、対象不動産が土地及び建物の結合により構成される場合又はその使用収益を制約する権利が付着している場合において、例えば抵当権の設定のための鑑定評価、設定された抵当権をもとに証券を発行するための鑑定評価等関係当事者及び第三者の利益に当該鑑定評価が重大な影響を及ぼす可能性のあるときは、独立鑑定評価を行う
べきでなく、その状態を所与として鑑定評価を行うべきである。
② 地域要因又は個別的要因についての想定上の条件の付加について
想定上の条件を付加する場合において、ア実現性とは、依頼者との間で条件付加に係る鑑定評価依頼契約上の合意があり、当該条件を実現するための行為を行う者の事業遂行能力等を勘案した上で当該条件が実現する確実性が認められることをいう。なお、地域要因についての想定上の条件を付加する場合には、その実現に係る権能を持つ公的機関の担当部局から当該条件が実現する確実性について直接確認すべきことに留意すべきである。
イ合法性とは、公法上及び私法上の諸規制に反しないことをいう。
ウ関係当事者及び第三者とは、依頼者及び鑑定評価の結果について依頼者と密接な利害関係を有する者のほか、法律に義務づけられた不動産鑑定士による鑑定評価を踏まえ不動産の生み出す収益を原資として発行される証券の購入者、鑑定評価を踏まえ設定された抵当権をもとに発行される証券の購入者等をいう。
想定上の条件が妥当性を欠くと認められる場合には依頼者に説明の上、妥当な条件へ改定することが必要である。
2.価格時点の確定について
過去時点の鑑定評価は、対象不動産の確認等が可能であり、かつ、鑑定評価に必要な要因資料及び事例資料の収集が可能な場合に限り行うことができる。また、時の経過により対象不動産及びその近隣地域等が価格時点から鑑定評価を行う時点までの間に変化している場合もあるので、このような事情変更のある場合の価格時点における対象不動産の確認等については、価格時点に近い時点の確認資料等をできる限り収集し、それを基礎に判断すべきである。
将来時点の鑑定評価は、対象不動産の確定、価格形成要因の把握、分析及び最有効使用の判定についてすべて想定し、又は予測することとなり、また、収集する資料についても鑑定評価を行う時点までのものに限られ、不確実にならざるを得ないので、原則として、このような鑑定評価は行うべきではない。ただし、特に必要がある場合において、鑑定評価上妥当性を欠くことがないと認められるときは将来の価格時点を設定することができるものとする。
3.鑑定評価によって求める価格の確定について
(1)正常価格について
現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件について
① 買主が通常の資金調達能力を有していることについて
通常の資金調達能力とは、買主が対象不動産の取得に当たって、市場における標準的な借入条件(借入比率、金利、借入期間等)の下での借り入れと自己資金とによって資金調達を行うことができる能力をいう。
② 対象不動産が相当の期間市場に公開されていることについて
相当の期間とは、対象不動産の取得に際し必要となる情報が公開され、需要者層に十分浸透するまでの期間をいう。なお、相当の期間とは、価格時点における不動産市場の需給動向、対象不動産の種類、性格等によって異なることに留意すべきである。
また、公開されていることとは、価格時点において既に市場で公開されていた状況を想定することをいう(価格時点以降売買成立時まで公開されることではないことに留意すべきである。)。
(2)特定価格について
① 法令等について
法令等とは、法律、政令、内閣府令、省令、その他国の行政機関の規則、告示、訓令、通達等のほか、最高裁判所規則、条例、地方公共団体の規則、企業会計の基準、監査基準をいう。
② 特定価格を求める場合の例について
特定価格として求める場合の例として掲げられているものについての特定価格として求める理由及び鑑定評価の基本的な手法等は次のとおりである。
ア資産の流動化に関する法律又は投資信託及び投資法人に関する法律に基づく鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
この場合は、投資法人、投資信託又は特定目的会社(以下「投資法人等」という。)に係る特定資産としての不動産の取得時又は保有期間中の価格として投資家に開示されることを目的に、投資家保護の観点から対象不動産の収益力を適切に反映する収益価格に基づいた投資採算価値を求める必要がある。
特定資産の取得時又は保有期間中の価格としての鑑定評価に際しては、資産流動化計画等により投資家に開示される対象不動産の運用方法を所与とする必要があることから、必ずしも対象不動産の最有効使用を前提とするものではないため、特定価格として求めなければならない。なお、投資法人等が特定資産を譲渡するときに依頼される鑑定評価で求める価格は正常価格として求めることに留意する必要がある。
鑑定評価の方法は、基本的に収益還元法のうちDCF法により求めた試算価格を標準とし、直接還元法による検証を行って求めた収益価格に基づき、比準価格及び積算価格による検証を行い鑑定評価額を決定する。
イ民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
この場合は、民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、財産を処分するものとしての価格を求めるものであり、対象不動産の種類、性格、所在地域の実情に応じ、早期の処分可能性を考慮した適正な処分価格として求める必要がある。
鑑定評価に際しては、通常の市場公開期間より短い期間で売却されることを前提とするものであるため特定価格として求めなければならない。
鑑定評価の方法は、この前提を所与とした上で、原則として、比準価格と収益価格を関連づけ、積算価格による検証を行って鑑定評価額を決定する。なお、比較可能な事例資料が少ない場合は、通常の方法で正常価格を求めた上で、早期売却に伴う減価を行って鑑定評価額を求めることもできる。
ウ会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合
この場合は、会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、現状の事業が継続されるものとして当該事業の拘束下にあることを前提とする価格を求めるものである。
鑑定評価に際しては、対象不動産の利用現況を所与とするため、必ずしも対象不動産の最有効使用を前提とするものではないことから特定価格として求めなければならない。
鑑定評価の方法は、原則として事業経営に基づく純収益のうち不動産に帰属する純収益に基づく収益価格を標準とし、比準価格を比較考量の上、積算価格による検証を行って鑑定評価額を決定する。 |
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